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東京地方裁判所 平成8年(ワ)12869号 判決

原告(反訴被告)

松山法友

被告(反訴原告)

藤島昌

ほか一名

主文

一  別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく、原告(反訴被告)の被告(反訴原告)らに対する損害賠償債務は、各一五万五一二〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  原告(反訴被告)は被告(反訴原告)らに対し、それぞれ一五万五一二〇円を支払え。

三  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく、原告(反訴被告、以下「原告」という。)の被告(反訴原告、以下「被告」という。)らに対する損害賠償債務は、各七万六一二〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  反訴

原告は被告らに対し、一〇〇〇万円を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  別紙交通事故目録記載の交通事故(本件事故)が発生した。

2  亡尚は平成六年一月二〇日死亡した。

3  被告らは、亡尚の実弟である。

被告らは、亡尚の相続人の全部であり、損害賠償債権を各二分の一宛相続した。

二  争点

1  亡尚と本件事故との因果関係

(一) 被告ら

亡尚は本件事故前は健康であり、本件事故後急速に体調を崩して死亡した。本件事故が亡尚の健康に重大な影響を及ぼして死亡したもので、死亡と本件事故との間には相当因果関係がある。

(二) 原告

亡尚の本件事故による傷害は平成五年九月三日治癒した。

亡尚は同年一一月中旬ころ心筋梗塞で入院し、急性心不全、心筋梗塞、胃がんで死亡したのであり、本件事故と死亡との間に因果関係はない。

2  損害

(一) 被告ら

被告らは、亡尚の死亡による損害賠償として一〇〇〇万円を請求する。

(二) 原告

別紙損害計算書のとおり

第三当裁判所の判断

一  争点1

1  証拠(甲一、二、一五ないし一七、乙五、証人税田和夫)によると次の事実が認められる(なお、被告らは甲二号証は被害者である亡尚の依頼に基づくことなく発行されたもので、証拠とすべきではない旨主張するが、診断書は医師の判断を記載するものであるところ、甲二号証は証人税田和夫の証言により成立が認められ、また、その内容についても医師である同証人の認識が記載されたことがその証言により明らかであり、被告らの主張にかかわらず認定資料となると考える。)。

(一) 亡尚は本件事故により右大腿打撲、右腰部打撲等の傷害を負い、平成五年六月一四日から同月一七日まで医療法人社団堀ノ内病院に入院した。

その後、同年六月二四日、右臀部に腫脹、熱感、発赤、波動があり右大腿峰窩織炎と診断され、その治療として抗生物質の投与を受けて、一四日間通院し、平成五年九月三日ころまでに治癒した。

(二) 同年八月ころから胸痛が出現し一時間程度で軽快したが、同年一一月中旬ころ再び前胸痛、背部痛が出現した。同月二一日午後に前胸部痛が現れ、翌二二日午前に救急車で搬送されて黒河内病院で診察を受け、心電図検査の結果、急性心筋梗塞が疑われて、北里病院に転院した。なお、亡尚は昭和六二年七月に胸痛を主訴として北里病院に通院していた。

亡尚はうっ血性心不全(虚血性心疾患による)、心筋梗塞、胃がん、貧血と診断され、平成五年一一月二二日北里病院に入院したが、同病院の検査に非協力的であり、みずからその治療、検査を拒否して同年一二月三日退院した。

(三) 平成五年一二月六日、胸苦しさが強くなり、緑成会横浜総合病院に入院し、同六年一月二〇日、急性心不全(直接死因)、急性心筋梗塞(急性心不全の原因)、胃がん(病的経過に悪影響を与えたと思われる身体状況)が原因で死亡した。

2  以上認定の事実に、交通事故による受傷が心筋梗塞、胃がん等に悪影響を及ぼしたり、増悪させたりすることはないと判断するのが、医学的な常識とされていること(証人税田和夫)を勘案すると、事故による傷害は平成五年九月三日ころまでに治癒し、その後、心筋梗塞が発症したことが窺われる。

そして、亡尚の心筋梗塞の発症に本件事故が影響していると認めるに足る証拠はなく、亡尚の死亡と本件事故との間に因果関係があると認めることができない。

二  争点2

1  治療費(甲三、四)

堀ノ内病院の入通院治療費は三三万二三二〇円と認められる。

2  入院雑費

前記認定のとおり、堀ノ内病院に四日間入院しており、一日当たりの入院雑費としては一三〇〇円が相当であり、その額は五二〇〇円となる。

3  通院交通費(甲五)

堀ノ内病院に一四日間通院しており、その通院交通費は五〇四〇円となる。

4  慰藉料

本件事故の態様、結果、傷害の部位、程度、入通院日数、その他本件に顕れた事情を考慮すると、亡尚の苦痛を慰謝するには三〇万円が相当である。

5  てん補(甲六)

治療費三三万二三二〇円が支払済みである。

6  合計

以上の合計からてん補額を控除すると三一万〇二四〇円となる。そして、被告らが亡尚の相続人であることは争いがなく、それぞれがその二分の一である一五万五一二〇円を相続したと認められる。

三  まとめ

以上によると、本訴について、原告は被告らに対し、それぞれ一五万五一二〇円を超える債務を負わないから、その限度で存在しないことを確認し、その余の請求は理由がないから棄却し、反訴について、被告らの請求は、原告に対しそれぞれ一五万五一二〇円の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからいずれも棄却する。

(裁判官 竹内純一)

交通事故目録

1 日時 平成五年六月一三日午後八時三〇分ころ

2 場所 東京都練馬区大泉学園町四丁目二三番

3 加害者 原告

4 被害者 亡藤島尚(亡尚)

5 態様 原告が普通乗用自動車を運転して、信号機のある交差点を青信号に従って右折しようとしたところ、横断歩道を青信号に従って横断歩行中の被害者に衝突した。

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